ドラッグストアの棚に、二種類の葉酸サプリが並んでいる。
片方には「Folic Acid」と書かれている。 もう片方には「5-MTHF」または「メチルフォレート」と書かれている。
どちらも「葉酸」だ。どちらも妊婦さんや栄養補給の文脈で語られる。値段は数倍違うこともある。どちらを選ぶべきか、どう判断すればいいのか。
この問いに正確に答えるには、葉酸が体内でどんな旅をするかを見る必要がある。そして、その旅を完走できる人と、途中で止まる人がいることを。
葉酸の三つの顔
「葉酸」と一口に言っても、実は形が違う。
Folic Acid(フォリックアシッド) ── 完全に人工的に合成された形。安価で安定。サプリの主流。自然界には存在しない。 Folinic Acid(フォリン酸) ── 半天然の形。Folic Acid よりも体内活性に近い。 5-MTHF(メチルフォレート) ── 体内で実際に使われる活性型。葉物野菜やレバーに含まれる天然形に最も近い。
Folic Acid を摂取しても、それがそのまま使われるわけではない。体内で 5-MTHF へと変換される必要がある。この変換を担うのが、MTHFR 酵素(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)だ。
MTHFR 遺伝子多型:日本人の約半数
MTHFR 酵素には、効率が落ちる遺伝子多型がある。代表的なのが C677T 変異だ。
- CC 型(変異なし)── 酵素活性 100%
- CT 型(一つ変異)── 酵素活性 約 65%
- TT 型(両方変異)── 酵素活性 約 30%
日本人の遺伝子調査では:
- CC 型 約 30%
- CT 型 約 50%
- TT 型 約 15%(地域により 10–20%)
つまり、日本人の約 65–70%は、Folic Acid を 5-MTHF へ変換する効率が標準以下。TT 型の人に至っては、Folic Acid をいくら飲んでも、活性型として体内に届く量はおよそ三分の一だ。
サプリを選ぶときの最大の論点はここにある。
なぜそれが体全体に響くのか
5-MTHF が不足すると、何が起きるのか。葉酸サイクルが回らなくなる、というのは一面の真実だが、もっと正確に言えば、メチル化反応の全体が滞る。
5-MTHF はメチル基(-CH₃)の運び手だ。このメチル基は、以下のすべての反応で使われる:
- DNA メチル化 ── 遺伝子発現の制御
- 神経伝達物質の合成 ── セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンすべての合成にメチル化が関与
- ホモシステインの再変換 ── 心血管リスクマーカーである ホモシステインを、無害なメチオニンに戻す反応の核心
- 解毒 ── 肝臓のメチル化反応
- クレアチン合成 ── 筋肉エネルギー
- リン脂質合成 ── 細胞膜の維持
5-MTHF が足りないと、これら全てが少しずつ滞る。**「なんとなく元気がない」「気分が沈む」「血管が気になる」**といった漠然とした不調の背景に、メチル化の停滞が隠れていることがある。
ホモシステインという、目に見える指標
精密栄養学では、血中ホモシステイン値が「メチル化が回っているか」の指標として重視される。
- 一般臨床基準:< 15 µmol/L
- 精密栄養学的理想値:< 7 µmol/L
ホモシステインが高い場合、葉酸(5-MTHF)、ビタミン B12(メチルコバラミン)、ビタミン B6(P5P)の補給が推奨される。これらは全て、ホモシステインをメチオニンに戻す反応の補因子だ。
血液検査でホモシステインが 10 µmol/L を超えている人は、自分の MTHFR 多型を疑い、活性型の葉酸(5-MTHF)に切り替えることで、3〜6ヶ月後に大きく下がることが多い。
サプリの選び方:成分表の読み方
ドラッグストアで葉酸サプリを買うとき、成分表の以下のキーワードを探す:
✅ 5-MTHF または 5-Methyltetrahydrofolate ✅ Quatrefolic(市販される 5-MTHF の有名な商標) ✅ L-Methylfolate Calcium
❌ Folic Acid(人工葉酸、MTHFR 変異の人には不向き) ❌ 単に「葉酸」と書かれているだけ(多くの場合 Folic Acid)
サプリの値段は活性型のほうが 2〜3 倍するが、MTHFR 変異がある人にとっては、2 倍払って一倍も効いていなかったのが、適切に効くようになる。費用対効果としてはむしろ高い。
葉物野菜(ほうれん草、ブロッコリー、アスパラ)から摂る葉酸は、もともと 5-MTHF に近い形なので、食事から摂れるならそれが一番。サプリは食事で足りない分の補完として考えるのが正しい。
「効くか」ではなく「運ばれるか」
健康サプリの議論は、しばしば「効くか効かないか」で語られる。けれど精密栄養学の観点では、もっと前段階の問いが重要だ。
「それは、本当にあなたの体内まで届いて、活性型として働けているか?」
Folic Acid を飲んでも、MTHFR 多型のある人には変換が間に合わない。ビタミン B12 も、メチルコバラミンとシアノコバラミンで吸収が違う。マグネシウムも、酸化物と甘草酸エステルでバイオアベイラビリティが大きく違う。
サプリを選ぶときの本当の基準は、**「効くか」ではなく「運ばれるか」**だ。
清く美しく生きるとは、おそらく、自分の体に何を送り込むかを、もう一段繊細に選ぶこと。
※本記事は情報提供を目的としており、医学的助言ではありません。サプリメント選びや服用については、医師・登録栄養士にご相談ください。妊娠中の方は、葉酸の摂取について必ず産婦人科医にご相談ください。