健康診断を受け、「HbA1c 5.5%、正常範囲です」と言われた。安心して帰る。
それが一般臨床における正しい判断だ。しかし精密栄養学の視点から見ると、5.5%はすでに「要注意」の領域に入っている。
一般臨床の基準と精密栄養学の理想値
| 指標 | 一般臨床 | 精密栄養学 |
|---|---|---|
| HbA1c 正常 | 5.7% 未満 | 5.0〜5.3% |
| HbA1c 糖尿病予備軍 | 5.7〜6.4% | 5.4%以上で要注意 |
| 空腹時血糖 正常 | 100 mg/dL 未満 | 80〜90 mg/dL |
この差は「基準のものさし」が異なることに起因する。
一般臨床の基準は疾患の有無を判定するためにある。「糖尿病かどうか」を判断するラインだ。5.7%未満であれば糖尿病ではない——これは医学的に正しい。
精密栄養学の基準は代謝の最適化を目指す。「疾患がないこと」ではなく、「代謝が最も効率的に機能している状態」を理想とする。研究が示すのは、HbA1c 5.0〜5.3%の範囲で心血管リスクが最も低く、インスリン感受性が最も高い、という統計的傾向だ。
HbA1c が 0.1% 動くとき
HbA1cは過去2〜3ヶ月の平均血糖値の指標だ。赤血球のヘモグロビンに糖が結合する割合を測定している。赤血球の寿命(約120日)が反映期間を決める。
0.1%の差は小さく見えるが、平均血糖値に換算すると約2.5 mg/dLの差に相当する。5.3%と5.6%の間には約7.5 mg/dLの恒常的な血糖差がある。
この「7.5 mg/dL」が日常的に続くとき、インスリンの基礎分泌量がわずかに高い状態が慢性化する。結果として:
- インスリン抵抗性の微細な進行
- 脂肪酸のβ酸化よりも解糖系が優先されやすい(ケトン体産生の抑制)
- mTOR経路のわずかな活性化(オートファジーの抑制)
- 小粒子LDL(sdLDL)の比率がわずかに増加する傾向
いずれも「疾患」ではない。しかし「最適」でもない。
ケトジェニック実践者にとっての意味
ケトジェニックダイエットの目的がケトン体産生の安定にあるなら、HbA1cはその土台の指標になる。
HbA1c 5.5% の人がケトジェニックを始めても、インスリンの基礎分泌がやや高いために脂肪酸の動員が鈍く、ケトン体濃度が上がりにくい——というパターンは臨床的にも観察される。
一方で HbA1c 5.1% の人は、同じ食事プロトコルでより速やかにケトーシスに移行する傾向がある。インスリンの基礎分泌が低いため、脂肪酸のβ酸化が優先されやすいからだ。
HIKYAKUのブートキャンプ(東海道九十日行)が合否判定の指標の一つにHbA1cを採用しているのは、この理由による。合格基準は「-0.3%の低下 or ≤ 5.3%」——後者は精密栄養学的理想値そのものだ。
数値の「向こう側」を読む
血液検査の数値を見て「正常範囲ですね」と言われたとき、もう一つの問いを持てるかどうか。
「正常とは、何に対して正常なのか?」
この問いを持つことが、精密栄養学の入口であり、自分の体を自分の言葉で理解する第一歩だ。
5.5%は病気ではない。しかし5.1%はもっと体が動く。その差を「誤差」と見るか「最適化の余地」と見るか——それは、どのものさしで自分を測るかの選択だ。
※ 本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断・治療の助言ではありません。血液検査結果の解釈については、医師にご相談ください。